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2007年6月18日 (月)

新刊・北越女人戦記第一部第四章「叛徒征伐」

「北越女人戦記」第一部第四章「叛徒征伐」を電子出版しましたのでお知らせします。

http://www.digbook.jp/product_info.php/products_id/8671

以下、本編より抜粋。

 栃尾城にもどったある日のこと、午睡を終えた景虎は美しい笛の音を耳にした。
 みずから琵琶弾奏を嗜み、歌舞音曲に心を癒すことの多い彼女は、誘われるように縁側に歩み出ていた。抜けるように高い天空がおだやかな光をふりまく、晩秋の昼下がりである。
 なんと風雅の趣ある笛よ……。景虎は思わず縁側から背を伸べてみた。
「誰かある! あの笛の音は?」
 いつも近侍している小島弥太郎らの姿は見えなかった。笛の音は山裾のほうからだろうか、遠く響いてくるような音色である。
 その音色に興味を惹かれた景虎は厩におもむくと、手ずから馬を引き出して騎乗した。遠くからの笛の音は複数の音色に変わり、あたかも彼女を招くがごとくに近づいては遠ざかるのだった。
「はいっ!!」
「いずくに行かれます、郡司様。お供衆は……?」
 大手門に馬を駆けさせると、景虎は追いすがる城兵たちを制して城門を飛び出した。
「遠乗りじゃ、供はいらぬ!」
 と、景虎は勢いよく城門をあとにした。
 山裾にまわり、馬を止めて耳を澄ましてみる。栃尾城裏手の鋸山から南に向かう街道が俯瞰できる場所だった。馬上に背を伸ばすと、わずかに行列の最後尾が見えた。
 ちょうど南からの風に乗って、澄んだ音色が間近に感じられる。景虎は空を舞うように馬を疾駆させていた。
 追いついてみると、思ったよりも大人数の行列である。荷駄の者たちは景虎に気づいても、知らぬふうに私語している様子だ。景虎はいななく馬を操りながら、行列の者たちを問いただしてみた。
「この行列の者ども、待て、待てっ! いずれの者にやあらん!? 関所の横目(役人)からは何も報告がないぞ」
 いくら誰何してみても、行列の者たちはまるで幻のような風情で、景虎に返答しようとはしないのだった。
「商人頭は誰じゃ? 行列の長(おさ)は名乗り出よ!」
 などと糾問しても、糠にクギの反応である。景虎はやむなく行列の中ほどまで馬を駆けしてみた。
 これは、嫁入り行列……? 大きな荷駄の列に隠れるかのように、行列の中ほどには花嫁の騎馬があったのだ。
「この嫁入り行列、どこから来たのか!? どこまで行くのです?」
 ややあって、年輩の武士が口を開いた。
「われらは越後府内からの者。これより上田へ参るところじゃ」
「府内からじゃと!? 上田へ?」
 景虎は意外な返答に驚いた。
「府内からであれば、来た方角がおかしいではないか。上田の誰のもとに参るのです!? あの嫁御はいずくの姫ですか?」
 景虎が立ちはだかろうとすると、年輩の武士は面倒くさそうに返した。
「上田様の御召じゃ。これなる姫君様、上田は坂戸城の長尾政景様が側室として召されたのじゃ」
「政景殿の側室……?」
 景虎は思わず顔色を変えて下馬すると、年輩の武士に詰め寄っていた。武士の従者たちを押し退けながら問い糾だす。
「政景の御台所はわが姉上、側室のことなど私は聞かされておらん。さては、政景殿は勝手な婚儀で国人衆を味方に付ける所存か!? 聞き捨てならぬぞ、どこの姫御じゃ」
「この婚儀の次第、御上の思し召しでもある。上杉定実様の御下命なり!」
「定実様の? では訊く。わが兄上様、府内の御屋形様の御意向は如何に?」
 腰の太刀に手をかけながら、景虎は馬上の花嫁を凝視した。そのまま景虎は、花嫁の顔を覆っている白布に手をかけていた。
「待たれよ、狼藉はゆるさぬ!」
「どけえっ!」
 花嫁の顔と髪を覆っている白布をはぎ取り、景虎は警護の兵たちと揉み合いになったのだった。
「こ、この者は……!?」
 そこで景虎は目覚めていた。たったいま眼前にあった花嫁行列は、午睡のつづきの夢だったのである。
「いかがされましたか? 御大将」
 と、弥太郎が廊下から声をかけた。
「な、何でもない……」
「大変な汗をかかれておられまする。ささ、この布を」
「うむ……。府内の兄上様から、何か言ってきてはおらぬか?」
 首すじの汗を拭いながら、景虎は縁側の外を見渡した。
「いえ、本日は飛脚はござりませぬが」
「そうか……。かねてより、新兵衛に申しつけておった上田攻めの机上演習をしたいと、
皆の者に申し渡せ。皆が集まりしだい、会所の広間で行なう」
「軍議にござりますか?」
「兄上様から御下知あれば、すぐにも攻め入る準備が肝要じゃ。上田の政景、いかなるこ
とがあっても討ち取らねばならん。あの者を生かしておくわけにはいかぬ」
 と、景虎は太刀と脇差しを身につけた。
 景虎が夢の中で見た上田へと向かう馬上の花嫁は、彼女自身だったのである。

↓上杉謙信女性説も併せてお読みください。

http://07494.cocolog-nifty.com/blog/2007/05/post_0370.html
http://07494.cocolog-nifty.com/blog/2007/05/post_b6bf.html

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